「しりとりで人生が変わればいいのに、、、」なぁんつって。
そんな奇跡を待ちながら、ヒマのお供のもじ遊び。
しりとりしてたら、なんだか世界が広がったなぁ、
心からそう思えるような体験を提供いたします。
うっそーん。

第八回(2013-06-11)
とまらない涙
 

どうして涙は、こんなにも、
こんなにもしょっぱいものなのだろう・・・

 

僕の偏屈な性格がまだ顕著になる前の、ピュアな中学時代のことだ。
当時、第二次性徴まっただ中の僕は、同級生の男子連中も
そうであったように、『女子』という生き物に興味津々だった。
可愛らしい女子生徒を見ると、
心臓の辺りがドクドク激しく波打った。なんだろう、この感覚。

 

「神様! 最近僕、どこか変なんです。心臓がドキドキして、
 身体の中がだんだんと熱くなってくるんです。
 そしてその熱はどんどん広がっていって、
 頭もボーッとしてなんにも考えられなくなるんです。神様!
 これはいったい、なんなんでしょう?
 僕は、おかしくなっちゃったんですか? 僕は病気ですか?」

 

「拓也君。安心しなさい。君は病気なんかじゃない。
 それは、君が立派に成長している証だよ。
 君が抱えている感覚、それは、性欲だよ」

 

「これが、、、これが性欲ですか!
 そうか、僕は性欲を手に入れたんだ! やった。やったぞー!」

 

こうして、性欲を手に入れた僕だったが、代わりに、
とても重大なものを失ってしまった。それは、女子との交流だ。
僕は、異性を意識しすぎるあまり、
女子とまったく喋ることが出来なくなっていたのだ。

 

普段の学校生活を送っていく上では、
女子と喋らなくても全く不都合はない。
しかし問題は、学校行事だ。
なにかと『クラスで一致団結するべき!』という
価値観を押し付ける学級担任。
そしてそれを無抵抗に受け入れるクラスメイト達。
学校は社会の縮図、だなんてよく言われるが、
マイノリティの声はどこにも届かないのが世の常らしい。
全員が幸せになれるような
ルールやモラルというものを共有するべきだ。
僕はそう思い続けた。無論、女子を意識し過ぎているので、
クラス全員の前で意見を述べることなんて出来ない。
「先生! 学級ルールをつくりましょう!
 『小太りで丸坊主の男子を見つけたら、
  女子の方から話しかける』という、
 誰もが幸せになれるルールを!」
僕は心の中で叫び続けたが、その声は無情にも、
行事でテンションの上がったクラスメイト達の騒ぎにかき消された。

 

例えば、校内合唱コンクール。
練習中、やる気のない男子を活発な女子が叱りつける、
という江戸時代中期から続く伝統的な儀式が、
僕のクラスでもやはり適用された。
なんと、生け贄とも称されるやる気のない男子の役目を、
僕が担当することになってしまったのだ。
いやいや、僕はやる気がないのではなく、勇気がないのです。
恥じらいを捨てられないだけなのです。
お願いだから、皆の前で僕をなじらないで。
そして皆、僕を見ないで! そんな冷たい目で、僕を睨まないで!
叱られながらも、女子意識過剰症候群の症状が出てしまったらしく、
謝罪も否定もせずに、一切口を開くことなくその場をやり過ごした。
ピーンと張りつめた教室の空気が、
その日のうちで緩むことはなかった。

 

そんなこんなで、本番当日。集団圧力から逃れられなくなった僕は、
全校生徒が見守る舞台の上から、自棄になって大きな歌声を放った。
本番だけは本気でやるという、男子中学生特有の現象だ。
コンクール終了後、僕たちのクラスは多くの賞賛を受けた。
それはほとんどが
「男子の歌声がすごい良かった!」というものだった。
同級生だけでなく他の学年の担任がわざわざ
言いにきていたくらいだから、結構真に受けてもいいものだろう。
僕はこう思った。「僕のお陰だ」と。
僕があんなに大きな声で歌わなかったら、
きっとこのクラスの男性パートが賞賛されることはなかった。
皆、僕、やったよ! 皆、僕を見ろ! 僕を褒めろ!

 

しかし、銀賞。金賞は頂けなかった。

 

すると、練習中に僕を叱りつけた女子が口を開いた。
「男子がもうちょっと練習してたら金賞取れてたのに・・・」
殺意が湧いた。他の女子には恥じらいで話しかけてないが、
お前には憎悪でだからな! 嫌いだから話しかけないんだからな!
ちびのくせに偉そうなことぬかすんじゃねえよ!
お前なんかな、ゴキジェットプロで一発なんだからな!
なんてことを考えていたら、
たまたま僕の近くに立っていたある女の子が呟いた。

 

「でも、男子スゴい良かったよね。男子のお陰で銀賞だよね」

 

僕は、一瞬で恋をした。
まさに女神(そうだ! マリアと呼ぶことにしよう!)。
男子のお陰で銀賞、ということは、
僕のお陰で銀賞という意味である。
それまで生きてきて、こんなに褒めてもらったことはなかった。

 

好きです!

 

その場の勢いで告白しようかと思った。
でもやめた。
なぜなら、僕は、女子を意識し過ぎていたから。
結局話しかけられないまま、気付けば僕らは、
中学を卒業していた。
マリアと僕は、別々の高校へと進学していった。

 
 

それから約10年後、大人になり偏屈になった僕だが、
多少は女性とも話しをすることが出来るようになっていた。
そして先日、不意に奇跡が訪れたのだ。

 
 

残った仕事を処理しようかと思い、
僕はとあるファーストフードに入店した。
いつもはほとんど利用しないお店だが、
隣接するレンタルビデオ店に行ったついで、
『ここでいいか』という軽い気持ちで自動ドアをくぐった。
その、たまたま入った店内には、
その日はたまたま若者グループが多数来店していて騒がしく、
かつ、空いている席も少なかった。
どこが一番仕事が捗るか等と考えながら
とある席に腰を下ろすと、なんとその席の隣に、
マリアが座っていたのだ。
しかも、驚くべきことに、マリアの方から声をかけてきたのだ。
久しぶりに会ったマリアは、すごくキレイだった。
突然の遭遇でうろたえながらも、
一言言葉を交わし、深呼吸をした。
マリアとはそれまでも、
成人式や友人の結婚式等で顔を合わせることはあったが、
二人きりで話し込む程の機会はなかった。
なにか、話しかけるべきだろうか。
でも、なんか仕事してるっぽいし・・・

 

トリアエズ、静カニシテイヨウ。
トリアエズ、仕事ヲシヨウ。

 

変に話しかけるよりは、
ここは黙々と仕事をこなしている姿を見せる方が、
逆に好印象なのではないだろうか。きっとそうだ。
僕は自分を納得させ、パソコンを開いた。
と、僕はある残念な事実に気付いた。
パソコンのバッテリーの駆動時間が、
そろそろ残り少なくなっていたのだ。
充電してくるべきだった!!
必死でコンセントを探すも、なかなか見つからない。
あぁ、どうしよう。仕事ができない!
でも、帰って家で仕事しようなどとは思わなかった。
なぜなら、隣にマリアが居るから。
たまたま入った店の、たまたま隣の席にマリアが居るなんて。
こうもたまたまが続くと、もはやそれは奇跡なのだ!
神様がくれた奇跡なのだ! そうですよね、神様!
ここで先に帰ることで、神様がくれた奇跡を
自ら手放すようなことはしたくなかった。
マリアが帰るまでは、俺は帰らないぞ!
そう固く誓った僕は、なんとか時間を潰す。
それも、いかにも仕事をしているかのように見せかけて。

 

マリアは、頑張り屋さんだった。
マリアは、なかなか帰らなかった。
僕は、もうずっと帰りたかった。

 

結局、マリアが店を出たのは、深夜の1時半を回った頃だった。
マリアは帰り支度を済ませて立ち上がり、
僕に向かってにっこりと微笑みかけてきた。
「お疲れさま」
そう言い残すと、そのままマリアは店を出て行った。
僕の「お疲れさま」が、
彼女に届いたのかどうかはわからなかった。

 

あぁ、僕はなんて小さい男なんだ。
もっと話しかけろよ!
自分の根性を恨んだ。

 

まぁでも、マリアの笑顔を見れただけでも、僕は幸せだ。
マリアは、可愛くて、優しくて、頑張り屋さんだった。
その事実だけで、僕はどこか幸せな気分になっていた。

 

マリアが店を出てから5分程経ち、僕も帰ることにした。
なんだかんだ、今日はいい日だったな。
少しはにかみながら車に乗り込もうとすると、
駐車場の隅に停めてあった車の中に、マリアの姿を見つけた。
あら。まだ帰ってなかったのね。
もしかして、僕が帰るのを待っててくれてたりして。
向こうも向こうで、話しかけるタイミングを掴めず、
最後のチャンスとばかりに駐車場で待ち伏せしていたのでは。
車に乗り込んだ僕は、ケータイをいじっているフリをして、
マリアが僕の車に近づいてくるんじゃないかと
横目でちらちら様子を窺っていた。
すると、僕の車の隣に、
一台の乗用車が駐車しようとしているのに気がついた。
おい、そこの車。邪魔だよ。君がそこに停めると、
僕がマリアを見れないじゃないか! オイ! どけよ!
そんな声は届くはずもなく、
その車はまんまと僕の視線とマリアへの想いをさえぎった。
その車の運転手は若い男で、
彼は降りるなり店内とは別の方向へと歩いていった。
おいおい、店に入らないのにここに停めるんじゃないよ!
怒りを通り越し、呆れ返った。
なんだかどうでも良くなった僕は、
マリアを諦めて家に帰ることにした。
駐車場を出る間際、チラッとマリアの車の方を見た。
すると、さきほど僕の隣に駐車をしやがった男が、
マリアの車へと乗り込んでいったのだ。

 
 

うそ、だろ・・・。

 
 

マリアに彼氏がいることは、同級生から聞いていた。
知っていたけど。でも、あいつが!
しかも、平日のこんな時間から待ち合わせなんて。
もう、やることほとんど限られてくるじゃないか!
行くとこほとんど限られてくるじゃないか!

 
 

あぁ・・・

 
 

軽く自暴自棄になりかけたが、僕は大人だ。
そんなことでいちいち凹んでなんかいられない。
僕はその足で、
近くの大人なビデオのレンタルショップへと向かった。
その店の中でも、
とびきり過激なコーナーでとびきり過激な一本を選んだ。
別に、落ち込んでないよ、と言わんばかりに。

 

僕はね、
君に彼氏がいるとか、僕のことなんて頭にないとか、
全然気にしてないよ。
その証拠にほら、こんな過激なモノも借りちゃうし。
これはつまり、いまあったことなんて、
全然気にしてないってことだからね。
別に、君のことなんて、なんとも思ってないんだからね!
こっちには、このAVがあるし! 君になんか興味ないし!
そういうことだからさ!

 

そうやって強がって、家に着くなり僕はビデオを再生した。
夜中だからイヤホンをして。別に、目的は自慰行為ではない。
こうでもして強がらなければ、
どうにかなってしまうような気がして。

 

ほら!
君たちはカップルで楽しんでいるかもしれないけどさ、
こっちはプロの取っ組み合いを見てるんだよね。
君たちアマチュアとは違うんだよね。わかる? プロ対プロ。
このビデオに出てくる人たちはさ、どっちもお金貰ってやってんの。
君たちみたいに、お金払って場所を用意するような、
そんなもんじゃないんだよ。わかる?
本気度が違うんだよね!
で、その光景を、ビデオの中の肉と肉の激しいぶつかり合いを、
カップ焼きそばを食べながら鑑賞している僕のこの余裕感。
どう? もう器が違うでしょ?
はじめからさ、君たちとは住む世界が違うんだよね。
ということだからさ、結局、つり合わないんだよ。君と僕じゃ。
ごめんよ、マリア。そういうことだからさ。
それにしても、この塩焼きそば美味いな。
なんか、いつもよりもスゲェー美味い。なんかね、
いつも食べてるのと同じヤツなんだけどさ、今日はなんか、
いつもよりも塩味が効いてるんだよね。
調味料の成分変えたのかな? なんだろう、これ。
食べれば食べる程、スゲェー塩辛くなっていく。
それにさ、きっちり湯切りしたはずなのに、
なんかスゲェー水がたまってるんですけど。
なにこれ? なんだろうこれ?
もう食べ終わったのに、水がたまっていくよ。
仕方ない。飲んじゃおうか。
あれ? 塩辛い。
麺は全部食っちゃったのに。
なんでだろう。う〜ん。
あ! そっか・・・
これが、涙なんだな。


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